| 【崖の上のポニョ】 宮崎駿監督と押井守監督。どちらもミリタリーマニアで、銃器や戦闘機類にはかなりうるさい事で有名。会えば「あれはこうだ」「いや、こうだ」と言い合う仲だとか。 そんな２人が映画で対決する形になったこの夏。「崖の上のポニョ」と「スカイ・クロラ」。両方観た結論は、 「いつもの宮崎駿監督と、変わった押井守監督」 宮崎監督の「崖の上のポニョ」。一言で言えば、まさに宮崎監督らし〜い宮崎アニメ。そう言う意味では期待を裏切っていないのだけど、残念ながらちょっと首をひねりたくなる所も。監督は小さな子供に観てもらいたかったようだし、紹介してる本も子供向けの物が出ているが、「小さな子供」向けとしては内容が難しく長すぎると思うのよね。 不思議な科学者（魔法使い？）が出てくるのは良いとしても、海の女神（海の女王？）が出てくるのは唐突。子供向けの解説本みたいなのには説明が書いてあるんだけど、映画の劇中ではほとんど説明が無い。 また、今作のそういうファンタジーな要素は、「となりのトトロ」などとは違って、主人公親子周辺のリアルな社会描写と整合しない感じ。 そもそも人魚姫の話で、どうして地球崩壊の危機にまで話を大きくする必要があるのか？ 環境問題を引っ掛けたんだと思うんだけど、港町の平和で明るい雰囲気が環境汚染のイメージと全然合わないんだよなぁ〜。あと、最後に丸く収まった理由もイマイチ納得できないし。大御所になった人が、原作から監督まで全部やっちゃって失敗するパターンだな・・・と思った。あ、違うな。宮崎監督は昔から全部やっちゃう人だった！ 大御所だからってワケじゃないな。 作画は素晴らしい。「手描きにこだわった」と言うだけの事はある。でもお話が・・・。今にして思えば（宮崎駿監督の息子さんが監督して、一般には不評だった）「ゲド戦記」の方が好きだったり・・・。 【スカイ・クロラ】 押井守監督最新作。押井監督には珍しく、マンガじゃない原作付きのアニメ。 これの原作小説は全然知らなかったので、そのまま事前情報無しで映画を観たのだが、「非常に素晴らしい」という感想。 どのくらいの「素晴らしさ」度かと言うと、 「うる星やつら２・ビューティフルドリーマー」 「機動警察パトレイバー２」 「アヴァロン」 に並ぶ、押井監督の代表作となると確信した。 まず、恒例の押井節（うんちくを語るシーン）が無いという点で「押井さん、本気だな！」と思ったね。実に抑制が効いた正当派演出。 脚本を敢えて若手に任せたのが良い方に効いていると思った。本人も、「自分で脚本を書く事もできたけど、それだと『イノセンス』と同じになっちゃうから」、というような意味の事を語っていたし。 特に雰囲気の表現の巧みさには脱帽。淡々とした場面が続いていても飽きない。背景の環境音（風の音とか、部屋の中の反響音とか）がしっかり演出されているので、キャラクターの絵がシンプルでも、その場のリアルな雰囲気が感じられる。これは重要だと思う。 また登場する戦闘機のデザインも素晴らしい。デザイナーは竹内敦志氏。ＣＧによる戦闘機シーンのコンテも同氏が担当。 この人が手がけたメカと言えば、「天地無用！」のコンセプトデザイン、「太陽の船・ソルビアンカ」の宇宙船ソルビアンカ、「REIDEEN」のライディーンなどなど、なまめかしい曲線と均整の取れた美しい物が多い。この人のデザインには前々から注目してた。戦闘機の空中戦描写は「戦闘妖精雪風」でも担当し、これもかなり凄かった。  本作に登場する、先尾翼・二重反転プロペラ式の戦闘機「散香（さんか）」は、第二次大戦末期に登場してそうなレシプロエンジン戦闘機。旧日本軍の「震電」みたいなデザイン。これはモデル化して欲しい！！・・・と思ってたら既に商品化されてた。速攻購入（左の写真）あと構成的に、本でいう「章」の区切りをはっきりさせているため、観ていて分かりやすい映画だ。だが、ストーリーは分かりやすいが、テーマはそんなに分かりやすくはない。というか「う〜ん、何となく分かるような気がするけど、上手く言葉に出来ない・・・」という感じ？ 誰かが「戦争の悲惨さ」みたいな事を言っていたが、そんなんじゃない。それは違う。舞台は戦場だけど、戦争映画じゃない。しいて言えば青春映画じゃないか？ 観ていて「何だろうこの気持ち・・・」「でもよく分からない」と感じている所に、ラスト近くの主人公のモノローグ。このモノローグで「そうか、そうだよな・・・」と、答えが見えたような気分になる。ここがいい。 何がしたいのかわからない、モヤモヤしたものを抱えつつも何となく過ぎていく毎日。いつから始まって、いつまで続くのか分からないそんな日常。俺だって、気が付けば年齢だけは大人になったけど、気持ちは特に変わった気がしない。 そんなモヤモヤした毎日の繰り返しも、そうと知ってみれば「それでもいいんじゃないかな」と。少なくとも、ドライブインの前でずっとうなだれている老人とは違う。だから「君は、何かを変えられるまで生きろ」なのだろう。 ひとつ残念な点は（これは原作がある物だから仕方ない事だけど）、主役のひとり、草薙水素（くさなぎ・すいと）という名前が、同監督の前作「攻殻機動隊」の草薙素子（くさなぎ・もとこ）と、かなりかぶってる点。どうしても「また草薙・・・」って思っちゃうよね(^_^; 興行的には圧倒的に「ポニョ」の勝ちだろうけど、中身は「スカイ・クロラ」も負けてないよ、という事で。 |
[2008/8/28] |
